まだ投げていた。小宮山悟、投手、40歳。千葉ロッテマリーンズが31年ぶりの日本一を遂げた昨年10月、彼は現役のプロ野球選手として胴上げの輪に加わっていた。
1986年6月、神宮球場の早慶戦。「桑田を出せー」と慶応側スタンドが叫ぶ。この年、桑田真澄は早稲田に進学すると信じ込んでいた世間を欺いてジャイアンツに入団。すっかりダシに使われた早稲田側スタンドからは、「それは禁句だー」と苦笑まじりの大声が返って来る。
そんな雑音など耳に入ってこないように小宮山は淡々と、桑田のいない早稲田のマウンドで正確な速球を投げ込んでいく。「小宮山って頭で入ったらしいよ。二浪だってさ」。入学したての学生はこうした話題に飛びつく。どうりで新入生離れした振る舞いだ。この日も小宮山は快投、慶應打線を苦しめた。
卒業後、ドラフト1位でロッテへ入団。その後、横浜ベイスターズ、米大リーグ、帰国して浪人、名将バレンタインとの再会。通算勝ち星は110勝だが、実は負け星が26も多い。大リーグでは1勝もできなかった。波乱万丈。それでも小宮山は投げる場所をつくり続ける。
継続は間違いなく力である。本誌センターニュースは6年以上前から、研究活動そのものではなく、産学連携活動を内容の中心に据えるという先端的な編集方針を続けてきた。農工大TLOも設立から5年目を迎えた。インタビューに「趣味は浪人です」と笑って切り返したこともある小宮山のタフネスに学びたい。(敬称略)
TLOにおける戦略的共同研究マネジメントモデル・その後
東京農工大学『産官学連携・知的財産に関する論文集』(2003年12月刊)に、国内のTLOが課題を克服するための一つの選択肢として、TLOにおける戦略的共同研究マネジメントモデルを提案した。農工大ティー・エル・オー株式会社(農工大TLO)はこの戦略を継続、拡大し、一定の成果を上げている。
技術移転で先行した米国でもTLO事業が軌道に乗るには10年以上かかったとされる。理由にホッケースティックカーブというTLOの収益曲線が挙げられる。一時金などを除けば、技術移転した研究成果が製品売上となってようやくロイヤリティ収入が発生する。一方で特許出願の経費や人件費は先行して発生する。このため、発足から運営が軌道に乗るまで収益はマイナスになりがちである。運営が軌道に乗ると収益は急速に回復する。横軸に時間、縦軸に収益を取ると、収益曲線があたかもホッケーのスティックのようにJ文字をやや寝かせた形になるため、こう呼ばれる。
大学の研究成果(シーズ)と企業のニーズがうまく合致しても、大半は研究成果を製品にするために追加的な研究開発が必要となる。大学と企業との共同研究が実施される場合も多い。TLOにはこうした共同開発プロジェクトをマネジメントする役割も求められると考える。
そこで、特許やノウハウのライセンス(実施許諾)に共同研究のマネジメントを絡ませた「戦略的共同研究マネジメント」が有効であると考える。実際の共同研究は大学と企業が実施する。TLOが担うのは、共同研究から生まれる知的財産を大学とTLOにとってより戦略的にし、研究全体をマネジメントする機能である。戦略的共同研究マネジメントの基本形は以下のようになる。
1)基本特許をTLO(あるいは連携する大学)から出願する。
2)基本特許の利用を前提に企業と大学との共同研究を仲立ちする。
3)共同研究の成果である改良発明は企業と大学の共同出願になる場合が多いが、その事業化には基本特許の実施許諾が必要である。このため、共同研究の実施の前後で実施許諾契約を締結し、TLOは実施料収入を得る。
仲立ちのところで、公募型研究の採択を得られると、研究費やTLOで使える管理費が拡大する。基本特許が強ければ、非独占にして複数企業へのライセンスも可能である。この手法により、単発のライセンスに依存するよりもTLOの収益安定につながるばかりでなく、ライセンスの成約率も向上するというのが実感である。
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