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1.はじめに
活発な研究開発をし、知的財産権を基盤にして事業を行っている企業では、特許化の可能性のある研究成果が出てきた場合、その事業化を視野に入れた特許戦略を、研究者と知的財産部門のみならず、開発部門、生産部門、営業部門などの関係者の意見を集約して技術を完成させるための戦略を立案し、それに基づく調査と研究を実施し、技術の完成度と競合技術に対する強さを確認したうえで特許出願している。
大学における研究についても、企業の方式を取り入れ、少しでも企業側の興味を惹きつけるような戦略が必要である。特に、バイオ分野の発明は、他の技術分野に比較して実用化に莫大な先行投資と長い開発期間を必要とする場合が多いので、その実用化について、企業の興味を惹きつけるのは容易なことではないからである。
大学におけるバイオ分野の発明の特許出願に際して重要なのは、その分野(技術面とビジネス面とも)に精通した技術移転の専門家(たとえば知的財産部や推進部、TLOアソシエイト、特許流通アドバイザーなど)が共同して、可能な限り市場性を検討し、特許出願の時期、追加データ取得の必要性、競合技術に対するメリット、事業化の課題などを理解する事である。
2.市場性の検討 〜具体例を中心に〜
本稿では、農工大に比較的多く見られる、抗癌剤、抗菌剤、抗生物質等の医薬品、医薬部外品を用途とする化学物質に関する特許発明をライセンスする場合を例にとり、以下に市場性の検討項目を解説する。
1)化合物の有用性
化合物が既知であり、比較的強い副作用を持つものであれば、化合物そのものを新薬として開発することはできず、当該化合物をシードとしてその誘導体を合成し、主作用及び副作用について満足いくものを探さなければならない。当該既知化合物が他者により権利化されている場合、その周辺化合物も権利範囲に含まれている可能性が高く、自己特許の価値は、新規作用機序についてのみとなる。
従って、その特許ライセンスを受けた企業は、ライバル企業出現のリスクを負うことになる。
2)作用機序の確認
現在使用されている代表的な同効薬の作用機序とは無関係であることは最低限証明しておく必要がある.それを怠っていると、企業側は、作用機序の特定もなされていない中途半端な成果と見る。
3)周辺化合物の権利化
不十分な誘導体のみを権利化すれば、ライバル企業は、公開された特許情報を基に権利範囲外の新規誘導体を合成することができる。
4)毒性試験の実施
全くの新規化合物でも、マウスの急性毒性試験で薬効用量と毒性発現用量との間に十分な開きがあることを実証した情報が必要である。
5)経口での効果の確認
慢性疾患を対象とする薬剤の場合、長期投与が求められる。注射剤での長期投与は被験体に苦痛を与え、直接の効果を判定しにくい場合があるので、経口での有効性を実証しておくことも重要である。
6)ヒトでの効果の予見
より大動物での実験データがあればよいが、ない場合でも、たとえば同じ作用機序の検体について、臨床試験で薬効がでるとの報告がなされていれば、低分子の化合物であっても、ヒトで有効である可能性が高い。
7)作用機序の優位性
すでにさまざまな作用機序の同効薬が上市されている場合、競合の非常に激しい市場が形成されていることもある。その中に参入する場合は、先行品との差別化は不可欠であり、作用機序の面からメリットを謳えると魅力が増す。
また、特にきめの細かい特許戦略、事業化戦略を必要とする案件については、特許出願の前にパートナー企業を見つけ、その企業の力を借りて技術を完成させるとともに、適切な特許を出願することも選択肢の一つとなろう。
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