TOP >農工大の研究成果を産業界へ >研究大学とTLO
 
||| 研究大学とTLO
農工大ティー・エル・オー株式会社
代表取締役社長 伊藤 伸

 研究大学(research university)という言葉がある。もともと大学の使命は教育と研究であるから、わざわざ大学の前に「研究」の文字を加えるのに違和感を覚えるかもしれないが、「研究を重視する大学という区分」と受け止めると理解しやすい。日本では「研究型大学」と呼ぶ時もある。研究大学が教育も熱心に推進することは言うまでもない。
 区分のもう一方には当然、教育大学(教育型大学)が来る。教育大学はさらに一般教養教育を重視する大学と職業人教育に重点を置く大学に分けられる。これらを組み合わせた総合大学もある。
 日本でこの研究大学という区分の定義はあまり明瞭ではない。範となるのは、この考え方が生まれた米国である。代表的なのは1970年代初期からカーネギー教育振興財団が続けている分類である。全米の大学を対象に博士、修士など四種の学位授与を指標として大学の分類を実施している。
 非常に簡略化すると、多様な専攻と大学院教育を提供し、一定以上の博士号を授与するのが研究大学であり、大学全体の6.7%に当たる。これは2000年版のカーネギー分類だが、直前の1994年版には分類の定義に「連邦政府からの研究開発費」が入っていた。つまり、研究大学は国から多くの競争的研究資金を獲得できる大学であったのである。2000年度版で除かれた理由は分野によって必要となる研究費が大きく異なるため大学の性格ではなく、規模や分野を反映してしまうと判断されたためであるが、研究大学が競争的研究資金を獲得しやすいのは事実であろう。逆に研究大学と認知されないと大型の競争的研究資金の獲得は非常に困難になると予想される。
 大学を分類する流れは日本でも強まっている。大学評価・学位授与機構の活動には大学の多様化と個性化を促進する狙いがあり、大学院重点化や学部を持たない大学院大学の設立は研究大学としての性格を強める働きをする。
 研究大学の性格上、知的財産の視点は欠かせない。公的な研究資金が投じられている上、1990年代以降、米国で大学の研究成果が大きな経済的成功に結びつくようになったため、国策として大学の生み出した研究成果の一部を産業財産権として法的保護、つまり権利化する必要が生じた。もし、研究成果を権利化しないと海外を含む他の企業が自由勝手に利用できてしまい、せっかく研究成果の事業化を希望する企業が現れてもリスクが大きく二の足を踏みかねない。これでは研究成果の事業化による社会貢献が果たせない。
 加えて1999年の産業技術力強化法にいわゆる日本版バイドール条項が盛り込まれ、政府が資金を提供した研究成果である知的財産であっても研究を実施した大学が保有できる道が開けた。同時に大学にはその知的財産を保護し、活用する責務を負うようになったのである。こうして創造、保護、活用の各段階で研究成果である知的財産を適切に評価し、適切に取り扱う知的財産マネジメントが大学に必要不可欠となった。これは大学が企業と接する際にもまったく同じである。企業は共同研究の成果が適切に保護されない大学に大きな研究資金を提供しないであろう。政府を含む外部競争的研究資金を多く獲得する研究大学にとっては知的財産マネジメントの重要性はなおさらのことである。
 ところで、現在の非常に盛んな産学連携時代の幕開けは、1998年の大学技術移転促進法(いわゆるTLO法)であろう。文部科学省と経済産業省が実施計画を認め、大学の研究成果の権利化からマーケティングまで手掛ける承認TLOが研究大学における知的財産マネジメントの突破口になったのは間違いない。
 日本のTLOについては一時期、極端な悲観論があり、収益の議論ばかり盛んだった印象がある。研究大学にとって知的財産マネジメントが必要不可欠な機能であり、その突破口が承認TLOとの認識が広く浸透していれば承認TLOの意義や役割はより明確だったと考えている。
 この点については少々長くなるが、経済産業省が2005年5月に発表した調査分析報告書「国立大学の法人化等を踏まえた今後の技術移転体制のあり方」の指摘を引用したい。
「一部の大学関係者の間で、大学の技術移転事業は利益を生む又は利益を目的とする事業であるかのような認識が見られる。しかし、今後、我が国の技術移転体制の健全な発展を図るためには、技術移転事業の意義は必ずしも大学が利益をあげることではなく、
@従来の教授個人と企業間の不透明な私的取引ではなく、特許移転という対価取引により最適なライセンス先を見出す透明性の高い取引を行うことで国費を投じて得られた大学研究成果を産業界に提供することに対するアカウンタビリティを果たすこと
A国費を投じて得られた大学研究成果を産業界へ移転することにより、産業競争力の強化、雇用の創出、地域社会への貢献を行うこと、
の2点にあることを再確認する必要がある。」
 ここで、知的財産マネジメントが研究大学に必要不可欠の機能ならTLOは研究大学で吸収してしまえばいいのではという疑問が生じるのは自然だろう。2003年度に文部科学省の知的財産本部整備事業が始まり、2004年には国立大学が法人化し、大学本体が知的財産のマネジメント機能を保有できる流れが強まったからだ。実際に私学ではもともと承認TLOを内部組織としていたところも多く、その場合、TLOと知的財産本部は同一の組織である。
 私自身、大学やTLOの置かれた状況は多様であり、モデルはひとつではないと考える。ただ、大学の外部組織であるTLOに優れた点があることは見逃せない。
 TLOの主力業務であるマーケティング(顧客の創造)とライセンシング(実施許諾)はとりわけビジネス的要素が大きい。前述した経済産業省の報告書にも、外部組織であるTLOの積極的理由として、民間的経営手法を導入した迅速な契約事務手続きや外部人材を活用した柔軟な人事、独立した会計により高いコスト意識を持って経営を行えることなどが挙げられている。形式的には学内組織のTLOが主流である米国においても独立のバランスシートを持ち財務管理を行うなど極めて独立性の高い形態を取っていることも指摘されている。
 一見、逆説的だが、研究大学にとって収益にかかわらず実行しなければならないが、やる以上はビジネス的な手法と意識が欠かせない知的財産マネジメントを、巧みに成り立たせるのが外部組織TLOの存在価値であり、醍醐味であるように思う。
 最初の承認TLOから近く丸7年が経過する。5年間の知的財産本部整備も3年目の途中にある。多くの大学に知的財産本部の組織ができ、産学連携ポリシーを始めとする学内の規程も整備された。研究大学にとっての産官学連携は「システムとルール」をつくる第1ステージから「マネジメントとガバナンス」を追求する第2ステージに入ったと受け止めている。柔軟なマネジメントが可能な外部組織TLOの優れた点を最大限に活用して、東京農工大学の知的財産マネジメントに一段の貢献をしていきたい。

○参考文献
1)光田好孝、「日本の大学のカーネギー分類」(大学財務経営研究、2004年)
http://www.zam.go.jp/n00/pdf/nf001004.pdf
2)経済産業省、「国立大学の法人化等を踏まえた今後の技術移転体制のあり方」(2005年)
http://www.meti.go.jp/policy/innovation_corp/tlo2/h170517/tlo.3houkokusho.pdf

 

 

Copyright(c) TUAT-TLO.CO.,Ltd.